社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
すでに時間二十時がまわっている屋上にはもちろん誰もいなかった。これからの時間もきっと誰も来ないだろう。

私は柵にそっと手をかけると、ぐっと噛み締めていた奥歯を緩めて息を大きく吸い込んだ。それと同時に目に涙がじわりとにじむ。

悔しい! なにも言い返せなかった自分が悔しい!

一生懸命やっても、それが成果に結びつかないことがあることも理解している。けれど、今回はあと一度チャンスが欲しかった。

聖学園の担当の人は、新しいシステムを導入することを楽しみしていた。お客様だったけれど、一緒にああでもないこうでもないと考えた契約内容は私にとってはとても大切なものだった。

契約して、設置した後の担当さんの顔が見たかった。

しかし、もうそれはできないんだ。

じんわりと滲んでいた涙がこぼれそうだったので、急いで上を向いた。それでも溢れた涙は頬を伝い流れ始める。

そんなとき、屋上の扉が開く音がした。あわてて涙を手でぬぐう。

「滝本っ!」

振り向かなくても、声でわかってしまう。どうしてこの人は私を放って置いてくれないんだろう。
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