社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
どれくらい時間がたったのだろう。涙が止まっても私は成瀬の腕の中の心地よさに離れられないでいた。

この腕も、温もりも自分のものではないとわかっている。

それでも、今は……今だけは甘えてしまいたい。ズルい自分が嫌になる。

だけど、成瀬だって悪い。

こんなことをされたら、嫌いになれるわけがない。

どんどん好きになって、せっかく卒業しかけていた片思いのエキスパートの称号が捨てられなくなってしまう。

でもいつまでも、こうしているわけにはいかない。

私は最後と思い、彼の背中に手をまわして力を込めた。そしてそれに応えてくれるように成瀬の腕もより一層私を強く抱きしめた。

大きく息を吐き、成瀬の胸に手を当てて軽く押した。するとそれまでくっついていたふたりの間に距離ができる。

「大丈夫か?」

聞いたこともないような、優しい声にまた涙が滲みそうになったのを、慌ててごまかした。

「成瀬のスーツ、ぐちゃぐちゃになっちゃった。ごめん」

見事にシミができてしまっている。そのシミに指をのばそうとした手を成瀬が掴んだ。
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