社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~

「お疲れ」

「あ、うん。おやすみ」

自宅マンションの前で、タクシーを降りた。成瀬はいつもと変わらない挨拶をして、ついさっきまで繋がれていた手を軽く上げた。

バタンと扉が閉まってタクシーが走り出した。私は小さくなって角を曲がって成瀬の乗ったタクシーが見えなくなるまで見送った。

「はぁ……なんなのいったい」

成瀬にとってなんとなくの戯れが私にとっては、強烈な事件になる。

成瀬が『冷たい』と言った私の手は、今燃えるように熱い。成瀬の感覚が消えないその手を反対の手でぎゅっと包み込んだ。

「成瀬のバカ」

片思いを貫く覚悟を決めたのに、素直に嬉しいと思えない。優しくされると欲しくなる。彼を自分のものにしたくなる。

このどうしようもない不毛な感情を抱えて私は週末を過ごす。そしてひとつわかったかとがある。

——成瀬と乗るタクシーは私にとって事件の宝庫だ。
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