社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
そのとき——。

「滝本!」

パンっと勢いよく障子が開く音がして、私を呼ぶ声が聞こえた。

ハッと顔をあげるとそこには息を切らせた成瀬の姿があった。

「なんだいきなりっ」

それまで私に詰め寄っていた安藤さんが、私から咄嗟に距離をとった。

「な、成瀬……」

私の震える声を聞いた成瀬が一瞬だけ安藤さんを睨んだ。しかしすぐに目をつむり落ち着こうとしているのがわかる。ぎゅっと握っている手は力を入れすぎて関節が白くなっていた。

成瀬の顔を見て安心したからか、ジワリと涙が滲みそうになった。けれど私はぐっとこらえて下を向きそれに耐える。

「どういうつもりだ、いきなり入ってくるなんて」

怒りで真っ赤な顔をした安藤さんが声を上げる。

「すみません」

成瀬が絞り出すような声で、謝罪の言葉を口にした。

そんな成瀬の後ろから、男性がひとり顔を出した。

「いやー安藤、偶然だな」

「た、多田(ただ)さんっ! どうしてここに?」

さっきの赤い顔から一瞬にして青い顔に変わる。私は入口に笑顔で立つ人の顔を確認した。たしか、何度か宮本産業で挨拶をしたことがある人だ。

「いや、久しぶりに成瀬さんと飲もうって話になってね。あ、彼が前のうちの担当だったんだよ。店に来てみたら安藤も来てるって大将が言うから」

そう言った多田さんの額には、汗が滲んでいる。おそらくここまで走って来てくれたのだろう。
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