社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
成瀬が私を助けるために、多田さんにわざわざ連絡して探しだしてくれたんだ。

「そうだったんですか……いや、滝本さんがどうしてもって言うから、仕方なくね」

嘘だ。最初に誘ってきたのは向うなのに。でもそれを言っても仕方がない。私はなんとか「そうなんです」と言い、その場を治めることに注力した。

「せっかくなんで、私たちも同席してもいいですか?」

多田さんが私にわざわざ聞いてくださった。

「はい、是非お願いします。食事はたくさんで食べる方が楽しいですから」

特に安藤さんみたない人とふたりっきりで食べるよりは。

「私、お手洗いに行ってきますね」

一度気持ちを落ち着けようと、バッグを手に取り席を立った。障子の向こうへと抜けるときに成瀬が一度私の手を、一瞬だけギュッと握ってくれた。

さっき安藤さんが私に触れたところだ。そんなこと成瀬は知らないはずなのに……たまたまなのに、それなのにその一瞬で慰められているような気持になる。

「いや、急にお邪魔してすみません」

いつもの明るい声色で、成瀬が座敷に入って席に着いた。

一度耐えた涙がこぼれそうになるのを必死で我慢して、私はトイレへと駆け込んだ。

仕事での悔しい思いや、嫌なこと、辛いことでの涙はいくらでも我慢できる。でも、優しくされると、我慢するのが難しい。

駆けこんだ化粧室の鏡で自分の顔を確認した。涙が滲みなんとか耐えたけれど、目の周りが赤くなっている。
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