社内恋愛症候群~小悪魔な後輩君に翻弄されて~
渡された用紙を開くと、そこには『婚姻届』という文字があった。

「こ、これって」

薄い用紙を持つ手のひらに、うっすらと汗が滲む。指先に力が入ってしまい少し皺がよった。

「貴和子さんに誕生日プレゼントなにが欲しいか聞かれたとき、色々考えたんですよ。だけど結局『貴和子さん自身』しか思いつきませんでした」

真剣な顔でそう告げるのだから、嘘や冗談じゃないだろう。

だけど、こんなに急にわたされて、「はい、わかりました」って、サインできるものでもない。

「ねぇ、ちょっと若林くん落ち着いて」

「落ち着いてます。それと『若林くん』じゃなくて『颯真』です」

確かに彼は冷静だ。私ひとり焦っている。けれど、これが焦らずにいられるだろうか。

「そんな、急に思いつきだけでする話じゃないでしょ」

一生のことなのだ。こういうことは衝動的にやっていいものではない。

「思いつきなんかじゃありません。現に証人の欄には、姉にサインしてもらってますから」

そう言われて、よく見てみるとたしかに仁美さんのサインもある。

「本当に本気なの?」

私の真剣な質問に、彼は静かに頷く。その強い目の輝きから、彼が本気だと言うことが伝わってきた。

口の中がカラカラで、酷く喉が渇く。
< 121 / 124 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop