社内恋愛症候群~小悪魔な後輩君に翻弄されて~

日が落ちて、気温がグンっと下がった街をネイビーのトレンチコートを羽織って歩く。足元にあった落ち葉が風に運ばれていく。

——もしかしたら、予約でいっぱいかもしれない。

駅から歩き始めて、ようやく自分がネイルサロンの予約をいれてないことを思い出した。

仁美さんのサロンはここ最近人気が出ていて、予約自体も取りづらい。

それなのに、予約するのを忘れるなんて……。

しかし最寄り駅で降りてしまった。ダメもとで覗いてみるだけのぞいてみようと思い、サロンの前まできて気が付く。

「あれ……」

いつもと少し様子が違うように感じた。今日は定休日ではないはずだ。だがいつも出ている鉢植えや、看板が今日は出ていない。

「こんばんは」

扉を開いて、中に声をかける。

「あ、すみません。今日は——」

カウンターで作業をしていた男性が顔をあげたのをみて、思わず声が上ずった。

「えっ……若林くんっ?」

「蓮井さん!」

お互いたっぷりと見つめ合った後、我に返った私は尋ねた。

「予約してないんだけど、ネイルをお願いしようと思って。あの、仁美さんは?」

店を見回してみると、衝立の向うにも人の気配はない。

若林くんに視線を戻すと、申し訳なさそうに眉を下げた。

「姉は、今日は帰ったんです。実は旦那さんが急に手術することになったんですよ。だから予約のお客さまの分だけ仕事をして、病院に向かいました」

「えっ? それは大変ね。それで容体は?」

手術という単語を聞いて、驚き目を見開いた。しかし若林くんは落ち着いた表情のまま答えてくれる。

「まだ、連絡もらってないから確かなことはわかりませんけど、盲腸ですから平気だと思います」

大事に至らない病気だと聞いて、安堵した。
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