社内恋愛症候群~小悪魔な後輩君に翻弄されて~
「だから、すみません。今日は施術できないんです。俺はここを片付けるために呼びだされたんですけどね」

肩をすくめて若林くんがそう言った。

「いいの。予約せずに急に来た私が悪いんだから。ちょっと嫌なことがあって、気分転換したかっただけだから、気にしないで」

苦笑いを浮べた私を見て、なぜだか彼が残念そうな顔をした。

しかしそれは一瞬のことですぐに何かを思い付いたみたいに明るい笑みを浮かべた。

「あのオレ、ネイルはできませんが蓮井さんをリラックスさせることは出来ると思います」

カウンターの向こうにいた彼が、こちら側にゆっくり歩いてくる。

彼の言葉と突然縮まった彼との距離にどうしていいのかわからずに、その場に立ったまま彼を見ていた。

「リラックスしにここに来たんですよね?」

「うん……」

彼は私の前までくると、私の手をそっと自分の手に取った。

「じゃあ、ちゃんと目的達成して帰りましょう」

にっこりと笑う彼の顔は、今まで見てきた紳士的な彼のものとは違った。

どこか小悪魔じみたその笑顔に、思わず私の目がくぎ付けになってしまう。

「ジャケット預かります」

「あ、そうね」

少しも抵抗しないで、ジャケットを脱いで渡した。

断ることだってできたのに、このときの私はそうしなかった。

彼は優しく私の手をひくと、施術台へ私を連れていき座らせた。
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