社内恋愛症候群~小悪魔な後輩君に翻弄されて~
そして二時間後。
カラオケを十分楽しんだメンバーは、それぞれ家路についた。
最後に残ったのは、主役の成瀬くんと、滝本さん、それに若林くんと私。
「おい、もう一曲歌うぞ」
「もういい加減にしてよ。カラオケは終わったの!」
私は酔いつぶれた成瀬くんは、滝本さんに絡んでいる。
見かねた若林くんが、申し出る。
「俺、送っていきましょうか?」
「でも、たしか若林くんの家って成瀬の家と反対方向だよね?」
滝本さんが、成瀬くんを支えながら若林くんに返した。
「はい……そうですけど」
「だったら、大丈夫。タクシーに乗せるし。酔っているけどちゃんと歩いてるから平気だと思う。それよりも貴和子さん送っていってくれる?」
え、私? 突然自分の名前が出て驚いた。
「あ、はい。わかりました」
素直に返事をした若林くんが、私に視線を向けた。
「いいわよ。酔ってないからひとりで帰れるわ」
ハイボール一杯しか飲んでいない私は、もちろん酔ってなどいない。
あと、数杯飲んでも、ひとりで帰ることができる。
「そんなこと言わずに送らせてください。俺でも、番犬代わりにはなりますから」
夜の繁華街に似合わないさわやかな笑顔を浮かべた。
「あっ、タクシーきました」
そんな彼は、空車のタクシーを捕まえて、滝本さんと一緒に成瀬くんを支えて、車に乗せた。