社内恋愛症候群~小悪魔な後輩君に翻弄されて~
「コスモポリタンと、ジンフィズを」

「かしこまりました」

口数の少なそうなバーテンダーがしなやかな動きで、すぐにカクテルを作りはじめた。

私たちはしばらくの間、シェイカーを振る姿を静かに眺めていた。

会話がないあいだも、居心地の悪さは感じない、むしろ一緒の空間を楽しんでいた。

「おまたせしました」

静かにふたりの前に、カクテルが差し出された。

私は目の前に置かれた、グラスを手にとる。

同じようにグラスを持った、若林くんが「お疲れ様でした」と軽くグラスを掲げた。

私もそれに倣って、グラスを持ち上げてから口をつけた。

ルビーのように赤く透き通ったコスモポリタンを一口飲む。爽やかな風味が口の中に広がる。

丁寧に作られたカクテルは、すごく美味しかった。

「おいしい……」

思わず言った言葉に、若林くんがにっこりする。

「そうでしょう。ここ、オレのおすすめなんです」

自分が褒められたかのように、ニコニコ笑う彼の顔を見て複雑な思いが渦巻いた。

——いつもは誰と来てるの?

思わず聞いてしまいそうになって、慌ててグラスを持ちコスモポリタンを飲んだ。

そんなこと、聞いてどうするつもり?

自分に自分で問いかけたところで、答えなど出ない。それでも尋ねずにいられない。

彼が誰とここに来ようと、私には関係のない話なのだから。
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