社内恋愛症候群~小悪魔な後輩君に翻弄されて~
誰からも必要とされている彼は、私とは違う。

隣で、機嫌よくグラスを傾ける彼が、週末の今どうして私なんかと一緒にいるんだろう。

自分を卑下する言葉が浮かんできて、それを掻き消したくて、一気にグラスの中身を飲み干した。

「同じものを」

ちょうど目の前にいた。バーテンダーに空になったグラスを差し出す。

「かしこまりました」

そう返事をしながらも、バーテンダーは私ではなく、若林くんの顔を見ていた。

その表情から私が大丈夫かどうか、彼に探りをいれているようだ。

その意図を察した若林くんが、頷くとすぐにバーテンダーはお代わりのカクテルを作り始めた。

「ピッチ早いんですね? まだ時間ありますからゆっくり飲んでください」

宥めるような言い方をされて、恥ずかしくなる。

後輩の若林くんにこんな風に言われるなんて……。

私は気まずさをみせないように、グラスに手を伸ばそうとして、まだお代わりがきていなことに気がついた。

そのくらい、心がザワザワとして落ち着かない。

テーブルの上に伸ばした手を、ごまかすように髪に持っていく。

また、今日も自分のなかの弱くて頼りない部分を彼に見られたような気がして、私は髪を耳にかけて、気を取りなおした。

しかし、そんな私お落ち着かない様子に、若林くんは気がついた様子で、体を私のほうへと完全に向けて顔を覗きこむようにする。

「なにかあったんですか?」

「どうして?」

自分が思っているよりも、冷たい声が出て驚いた。

しかしそんなことを気にするでもなく、若林くんが話を続ける。

「いつもと少し様子が違う気がします」

折よくバーテンダーが、グラスを差し出してくれる。私はそれを手に取り、口へ運ぼうとする。

しかし、その手を若林くんが止めた。
< 73 / 124 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop