社内恋愛症候群~小悪魔な後輩君に翻弄されて~
「さっき言いましたよね。『ゆっくり飲んでください』って」

「うん。わかってる」

自分でも、落ち着かなくちゃいけないと思っている。

彼の手が私から離れると、彼の言葉に従うように私は一口だけゆっくりと飲み、グラスを置いた。

「ごめん。なんか、感じ悪くて。ちょっと今日嫌なことがあって」

「そうですか……」

一言つぶやくと、彼もグラスをゆっくりとかたむけた。無理に聞きだそうとはしない。けれど、その無言が私に話をさせようとする。

「結局自分は、なんなんだろうって。一生懸命仕事をして、疎まれるなんて思ってもみなかったから」

山崎部長の言葉を思い出して、喉の奥が悔しさでギュッとなる。

「疎まれる? 蓮井さんが?」

驚いた顔の若林くんがこちらに身を乗り出してきた。

理解できないと言った表情の彼に、この話をしたことを後悔した。

「若林くんみたいに、誰にでも必要とされている人にはわからないわよ」

私はカクテルのグラスの足を指なぞりながら話を続けた。

「営業部から、営業企画へと異動になったとき、それなりに実績を残してきたはずなのに、どうしてって……、きっと営業ではこれ以上上へはいけないって判断されたんだと思った。自分でもそう思おうと無理矢理納得させた」

当時のことを思い出して、悔しさがぶり返した。

周りにはそんな素振りを見せなかったけれど、営業企画への異動は私にとって不本意なものだった。

「私ね、営業の仕事が好きだったのよ。もっと頑張りたかった。でもそれが出来なくなってしまった」

若林くんは、なにも言わずに聞いてくれる。
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