鬼常務の獲物は私!?
◇◇◇
比嘉さんがやって来た日から数日後。
15時の給湯室に、私と星乃ちゃんがいた。
営業部の応接室に来客があり、部長と課長が今、対応している。
私たちはお茶出しをして、空のお盆を下げてここに戻ってきたところだった。
給湯室のドアを閉めて、自分たち用に緑茶を煎れ、お茶菓子に買ってきた鶴屋の黒糖饅頭の残りを、立ったままでこっそりいただく。
ひと口食べて「美味しいね!」と笑いかけたのに、「悩んでいる時に無理して笑わなくていい」と星乃ちゃんに痛いところを突かれてしまった。
口もとに運んでいた食べかけの黒糖饅頭を、そのままお皿に戻してしまう。
「悩みというほどのことじゃなくて、なんていうか……心がモヤモヤしているというか……」
神永常務の第二秘書として現れた比嘉さんのことが、心に引っ掛かっていた。
第一印象で感じた通りの優秀な人のようで、この前、高山さんが『非常に助かります』と褒め言葉を口にしていた。
私が常務室に呼ばれて来ている間、高山さんは席を外していることが多いが、彼女は忙しそうに度々訪室。
舌打ちする常務に臆することなく、「後で慌てないためにも、今すぐにこれをやって下さい」と、書類の束を置いていくのだ。