鬼常務の獲物は私!?
そう思った途端にポケットでスマホが震え、メールの着信を告げた。
それはやはり神永常務からのもので、内容はいつもと同じ、今すぐ常務室に来いというものだった。
「星乃ちゃん、常務室に行ってくるね」
「メス猫に気をつけて」
「常務室に猫はいないよ……」
おかしなことを言う星乃ちゃんにクスリと笑わせてもらってから、給湯室を出て階段に向かった。
ステップを駆け上がってつまずきそうになり、慌てて速度を落として一段一段ゆっくりと上る。
今日はまだ神永常務の顔を見ていない。
もうすぐ会えると喜びそうになる心を戒めるのが少し大変だった。
すると4階と5階の間の踊り場で、上から下りてくるパンプスの足音を聞いた。
見上げると、下りてきたのは書類を手にした比嘉さんで、思わず足を止めた私の前で、彼女も足を止めた。
「また常務室に行くのですか?」
非難めいた冷たい声にビクッと肩を揺らしてしまい、「そうです……」と小声で答えるのが精一杯。
なんとなく気づいていたけれど、私って比嘉さんに嫌われているみたい……。
厳しい視線と目を合わせていられず、ペコリと会釈して、その場を逃げ出そうとした。
しかし、5階への階段の次のステップに足を踏み出したところで、「待ちなさい」と命じられてしまった。
「今日の常務のスケジュールは、外回りが4件も入っていました。
最後の1件はこれからで、3件目が終わった後に真っすぐ向かった方が楽な場所なのに、一度お戻りになると言い張り高山さんの助言を聞かなかったそうです。
この意味、お分かりですか?」
「はあ……」