鬼常務の獲物は私!?
一度踏み出したステップから足を下ろし、踊り場に戻って向かい合う。
常務のスケジュールや移動について説明されても、私には関わりのないことで、『お分かりですか?』と問いかけられても曖昧に頷くしかできなかった。
私を観察するように見ている比嘉さんの視線に、やがて侮蔑と呆れの色が混ざる。
「福原さんは理解が悪いようですね。分かりました、はっきり言います。常務の仕事を忙しくしているのは、あなたです」
「え……私……?」
「あなたに会いたいがために、常務は一度帰社しました。そうしなければ、外でゆっくり休憩も取れるのに、たった20分のために無理して帰って来たのです。
もちろん、それに付き合う高山さんも同じこと。福原さんは常務と高山さんの、仕事の妨げになっているのだと自覚して下さい」
はっきり分かりやすく説明してもらって、比嘉さんの言いたいことをやっと理解した。
それは私も気にしていたことで、私に構わなければ、もっと休憩時間が取れるのにと心配もしていた。
なので反論の言葉はないが、人に指摘されると心が痛い。
今までは単なる心配に過ぎなかったのに、今は私が悪いと非難されてもいる。
そっか……そうだよね。
無理をしてまで私を構うのはやめて下さいと、私が言うべきだったんだ……。
比嘉さんのお陰で、自分の非に気づくことができ、反省した。
俯いて「ごめんなさい……」と謝った時、真後ろに階段を下りる革靴の足音を聞いた。