鬼常務の獲物は私!?



「昼は外で済ませた」と教えてもらえて、少しホッとする。

私には朝晩の食事以外でお役に立てることがないのが、歯痒い思いだ。


「お仕事で、私にお手伝いできることがあればいいんですけど……なにもないですよね……」


鈍臭くマヌケな私には、比嘉さんのように彼の仕事をサポートしてあげられない。

サポートどころか、迷惑をかける事態になるのは自分が一番よく理解している。

ダメな自分を再認識して気分が下がりそうになったら、常務に肩を抱き寄せられて、額にチュッとキスをもらった。


「こうして側にいてくれるだけでいい。
日菜子に触れていると、幸せを感じるんだ」


嬉しい言葉を言ってもらえて、逆に私が幸せをもらってしまった。

心がじんわりと温められ、「神永常務……」愛しい名前を呼んで微笑みかけると、なぜか彼の眉間にシワが寄った。


「コラ。ふたりきりの時は、なんと呼ぶ約束をした?」

「あ……」


彼の名前は、神永彰(アキラ)。
"彰さん"と呼ぶように命じられたのは同居してすぐのことだが、その名前をまだ数回しか口にしたことはない。

話しかけるときは大抵「あの」から始まるし、家の中に人間はふたりだけなので、名前を呼ばなくても用は足りてしまう。

それに加えて、呼び慣れない下の名前は、なんだか恥ずかしくて……。


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