鬼常務の獲物は私!?
菅野部長が移動した席が、本来の私の席だった。
理事長先生からも事務長さんからもなるべく遠い席にと、高山さんが考えてくれた場所で、彰さんにとっては比嘉さんが座ると信じていた席だったはず。
私は一番の末席がいいんですが……と言いたくても、言えないこの空気に黙り込む。
高山さんが立てた計画を最初から理事長先生に崩されてしまい、仕方なく私は事務長さんの向かいの席に腰を下ろした。
女将さんが私の前にあった食べかけの懐石料理のお膳を菅野部長の前に移し、「すぐにお食事をご用意しますので」と言ってくれる。
飲み物の注文も聞かれたので「お茶をお願いします」と答えた。
「承知いたしました」と女将さんが出て行ってから、「お嬢さんは、お酒を召し上がらないのかな?」と理事長先生に質問された。
お酒は……甘いカクテルなら飲めるけれど、今日は酔っ払ってはいけないから「飲めないんです、すみません」と嘘をつく。
「いやいや、酒豪の女性よりよっぽど可愛らしいじゃないか」
そう言って理事長先生は笑いながら褒めてくれて、私は曖昧な笑みを返していた。
すぐに私の前にもお膳が運ばれてきて、男性たちが日本酒を酌み交わし、今はビジネス以外の話題に花を咲かせていた。
料理は美しく上品な美味しさで、一見和やかな食事会のように思えるのだが……私の緊張が解けることはなく、逆に強まった気もする。
左隣に座る彰さんは、終始営業スマイル。
でも怒っているような鋭い空気が、さっきから私の左半身にチクチクと突き刺さってきて、精神的に痛い。
向かいに座る事務長さんはというと……まだ私に話し掛けて来ないが、穴の開くほどに見つめられ、眼鏡の奥の小さな瞳と視線を合わせるのが恐かった。