鬼常務の獲物は私!?



『積極的に』と言った理事長先生もさすがに驚いた顔をしていて、彰さんの営業スマイルには、こめかみに筋立つ怒りのマークが出現している。

一瞬シンとしてしまったお座敷の空気を破ってくれたのはフォロー係の高山さんで、お銚子を手に身を乗り出し、「事務長さん、どうぞ」とお酌しながら話しかけた。


「景仁会病院の事務長さんともなれば、さぞ女性にモテることでしょう。
今の言葉、冗談だと分かっていますが、急に言われるとドラマのワンシーンのようで女性にはグッときそうですね。私もまだ未婚の身なので、勉強になります」


突然のプロポーズの言葉をすかさず冗談にしてくれた高山さんは、やっぱり頼りになる。

不満顔の事務長さんに反論の機会を与えず「ところで、今朝の新聞の経済面に面白い記事がありまして……」と、話題を変えてくれたのでホッとしていた。

よかったと胸を撫で下ろそうとしたのだが……安心するのはまだ早かったみたい。

それまで口数の少なかった事務長さんが、なにかのスイッチが入ってしまったかのように急に攻撃的に喋り出した。


「高山さんの話に興味はないので黙っていて下さい。新聞記事よりも僕は日菜子さんのことが知りたい。彼女との会話を邪魔しないでもらいたい」


眼鏡の奥の小さな瞳がこっちに向いて、ギクリとする。

再び私に話しかけてきた事務長さんは、趣味や好きな映画や食べ物、家族構成などを畳み掛けるように質問してきた。

人が変わったようなその勢いにたじろぎつつも、私はなんとか短い答えを返す。

ひと通り情報を取られた後、今度は事務長さんが自分のことについて話し出した。


「先ほど高山さんが、僕のことをさも女性経験が豊富なように話していましたが、それはないので誤解しないで下さい」

「は、はぁ……」

「本当です。ソーシャルゲーム上では数々の女性と知り合い、結婚と離婚を繰り返しておりますが、生身の女性には好かれたことがなく、45になってしまいました」

「そ、そうなんですか……」


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