鬼常務の獲物は私!?
定時きっかりに「なにかお手伝いすることはありますか?」と営業マンの皆さんの机を回り、全員に「ないよ」と言われて今日の仕事を終える。
今日は暖かいので春物のロングコートではなく、薄手のジャケットを羽織ってきた。
そのためこれまでとは違って、更衣室で制服を脱ぎ、私服に着替えてから帰路に着く。
社屋から出て数歩進み、おっと忘れていたと、慌てて太郎くんマスコットのボタンを押し、左のポケットにしまう。
後は夕食の献立を考えながら電車の駅に向けてのんびり歩いていると、ジャケットの右のポケットでスマホが震えた。
建物の側に寄り、立ち止まってスマホを取り出す。ディスプレイには『子猫日和の本間さん』の文字が。
子猫日和は太郎くんを譲ってもらった猫カフェで、本間さんは優しい中年男性の店長さん。
メールは年に数回、猫画像付きでやり取りしているが、こんな風に電話が掛かってくることは滅多にないので驚いた。
理由は思い当たらないけれど、とにかく急いで通話に出る。
「もしもし、福原です。
本間さん、お久しぶりです」
「あ、あ〜、日菜ちゃん……。
今、忙しいでしょ? 電話している時間なんて取れないよね?」
「いえ、仕事が終わって帰り道なので、大丈夫ですよ」
「そっか……電話、できちゃうのか……」
スマホの向こうの本間さんの様子がなんだか変で、首を傾げた。