やさしい先輩の、意地悪な言葉
「……大丈夫?」
心配そうな声色でそう言いながら、神崎さんが紙コップに入った冷たいオレンジジュースを私に渡してくれた。
……ゾンビ映画は、評判通りの、いや評判以上にクオリティの高いものだった。
ゾンビ映画が好きな人が観たら、大満足の素晴らしいものだったと思う。
でも、私は……。
ただでさえ怖いものがニガテなのに、あんなにクオリティの高いものを観て、半分くらい観たところで気分が悪くなってしまった。
そして、私の様子に気づいた神崎さんが、映画の途中で私をロビーに連れ出してくれた。
「怖いの、ニガテだった?」
ロビーの長ソファーの私のとなりに腰をおろすと、神崎さんはそう聞いてくれた。
「すみません……」
「ううん」
神崎さんは、『恋愛ものじゃなくていい?』って聞いてくれてたのに。私がそれを否定してゾンビ映画を選んだのに。
結局、具合が悪くなって、映画の途中でいっしょに抜けてもらって、ジュースまで買ってもらって、迷惑かけてる。
だけど、神崎さんは。
「俺が恋愛ものに興味ないと思って、気を遣ってくれたんだよね」
「その……」
「ありがとう」
と、どこまでもやさしい……。
「あの……あとでお金返します」
「お金?」
「映画代……私の分まで出していただいてしまいましたが、結局私のせいで全部観ずに出てきてしまったので、私の分と神崎さんの分、あとで支払います」