やさしい先輩の、意地悪な言葉
「そんなこと気にしなくていいから」

「でも……」

「俺に気を遣ってわざわざニガテなゾンビ映画を選んでくれたっていう、その気持ちがうれしいからさ」


…….恥ずかしくて情けなくて、でも……

うれしさもあった。

神崎さんの顔をちゃんと見れずに、私はジュースを飲んでごまかした。



隆也は、出先で私が具合悪くなっても、あんまり心配してくれなかった。むしろ、露骨にめんどくさそうな顔をしてた。

隆也に気を遣っても、それはあんまり伝わらなくて、『ありがとう』って言われたことはあまりなかった。だからこそ、たまに言ってくれる『ありがとう』を聞きたくて、未だに隆也のためになんでもしようとしちゃってるんだけど。


……でもそれって……やっぱりおかしい?
なんか、隆也のためにって思ってずっといろいろやってきたけど……隆也のためっていうより……私はただ隆也のご機嫌を伺ってるだけ? 隆也に好かれたい自分を満足させるためにやってる?



「……瀬川さん?」

神崎さんの声に、はっと我にかえる。いけない。つい考え込んでしまった。


「大丈夫? まだ気持ち悪い?」

「い、いえ。すみません……」

「いいって」

神崎さんはにこっと笑った。
神崎さんに対して申しわけない気持ちはもちろんあるけど、笑顔でそう言ってくれると、やっぱり、安心もする……。

そういえば最近の隆也は……私がなにかしてあげた時しか笑ってくれない気がする。少なくとも、私を気遣って笑ってくれることがあったかな。
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