やさしい先輩の、意地悪な言葉
「……瀬川さんは、好きな人にも気を遣ってるの?」

「え?」

突然のそんな質問に、私はまたしても言葉に詰まる。


「あ、いや。変なこと聞いちゃったかな」

「いえ……」

「……俺がいろいろ言える立場じゃないんだけど……やっぱり少し心配になって」

「心配……?」

私が聞き返すと、神崎さんはまっすぐに私の目を見つめた。
私も、ハンバーガーを食べる手を止め、神崎さんの目を見る。
……人の目をしっかりと見つめるのはニガテなはずなのに、なぜだか自然とそうしてた。そして、逸らせなかった。


「……瀬川さんが、元カレと、まあ、そういう関係だって聞いて、あの時はああ言ったけど……」


ーー『よっぽど好きなんだね』

ーー『自分のこと大事にしてね』


うん、神崎さんはあの時、そう言ってくれた。



「あれは、ウソじゃないよ。一番大事なのは、瀬川さんの気持ちだし。
でも……もし元カレに瀬川さんの気持ちを伝えられていないのなら、瀬川さんが元カレにそういう意味で気を遣っているようなら、それは瀬川さんにとって、素敵な恋愛じゃないなって思って」

神崎さんは、言葉を慎重に選ぶようにしながら、ゆっくりとそう言ってくれた。



ーー素敵な恋愛じゃない。

自覚は、してたと思う。
でも、みんなに“素敵な先輩”と言われている神崎さんに『素敵じゃない』と言われたら、ああ、本当に素敵な恋愛じゃないんだなって思った。
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