強気な彼から逃げられません
「すみれが丘の駅裏で俺たち降りるから、シュウはこのまま乗っていけ」
「……了解。あまり飛ばし過ぎるなよ。 彼女、突然のことで目がテンになってるし体も固まってるぞ」
助手席から聞こえる声とため息に不安を感じつつ、隣から向けられる思惑ありげな視線に気持ちを揺らされながら。
「あの……えっと……」
私は意味もない言葉を繰り返した。
それからしばらく、二人並んで何を話すでもなく。
流れる景色を見ながらも隣にいる怜さんを意識していると、タクシーは私が普段使っている最寄駅に到着した。
怜さんが料金を払ってくれた後、駅前のロータリーに降りた私の腕を掴んだまま、怜さんはつかつかと歩き出した。
なんの迷いもなく歩き始めた向こうには、確かに私の住むマンションが見えていて、帰る方向としては合ってるんだけど。
「あの、もう、ここでいいですから。それに、あの、タクシー代はいくらですか」
私の腕を引っ張るように前を歩く怜さんに焦った声をかけるけれど、怜さんは振り向く事もなく
「こんな遅くに女一人で歩かせるわけないだろ」
「だ、大丈夫です。いつも一人で歩いてるんで慣れてます」
「はあ? いつもこんなに遅いのか? 危ないだろ」
駅から徒歩3分の距離にあるマンションまでの道の途中には、コンビニもあるし街灯も多いせいか夜中でも明るくて、一人で帰る夜道でもそれほどの不安は感じない。
こうして歩いていれば、怜さんだってその事に気づいているはずなのに、その背中から漂う怒りが理解できない。