強気な彼から逃げられません



それに、落ち着いて考えてみれば、私がこうしてタクシーに乗せられて、そして初対面の男性に手を引かれているのもおかしな話。

あまりにも慌ただしくタクシーに乗せられて、そのまま最寄駅まで送ってもらっているこの状況って。

「ちょっと、いい加減にその手を離しなさいよ」

ぐっと足を踏ん張って立ち止まったあと、掴まれた腕に力をこめて振りほどいた。

勢い余って体は不自然に揺れたけれど、どうにか体制を立て直して、まるで仁王立ちのように両足に力を入れた。

「いい加減にしてよ。私がこの駅を普段から使ってるってどうして知ってるの?それに、だからってどうしてあなた達と一緒にタクシーに乗せられなきゃいけなかったのよ」

夜の時間の静けさを壊さないように、辺りを気にしながらも、ぎりぎりの大きさの声で怒りを言葉にした。

そして、きっと怜さんを睨んだ。

「俺、自分がしてる事、おかしいって自覚してるんだけど。どうしても今日掴まえるって決めたんだ」

ふっと笑った顔は、どう見ても整っていて、きっと女性からの人気は少なくないって思ったけれど、それ以上に悪い人ではないという直感もあった。

私の腕を掴んだままの力はかなり強引だし、口調は傲慢で上から目線だけど。

「わりい。俺、やっぱり諦められないんだ。お前の事」

「え? な、何言ってるの? 諦められないって、一体いつ私が諦めてくれなんて言った?」

目の前の口元はくくっと笑いを含んで、

「まあ、そうだな。たしかに 言われてないけど、特に俺を意識するでもなく、目の前を颯爽と何度も通り過ぎられて、 自信喪失してた」

肩をすくめつつ、理解不能な言葉が落とされた。

一体どういうこと?

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