強気な彼から逃げられません
「じゃ、お疲れ様でしたー。楽しい週末を」
私の隣に座っていた女性は、彩実さんという名前だった。
そして、三人は同じ職場で働いているらしい。
ほんの数分のタクシー内での会話を聞きながら、それは簡単に知ることができた。
彼女は私の反対側にいる「れいさん」のことが気になるようで、時々私を通り越しては視線を投げていたけれど。
その「れいさん」はその視線に気付かないままだった。
もしかしたら気付いているのに気付いていないふりをしているのかもしれないけれど。
たまに小さなため息を落とす彼女が不憫に思えた。
できれば座席の並びを変わってあげたいけれど、狭い車内でそれも無理だし、あっという間に彼女が降りる場所に車は止まった。
何か物足りなさげにタクシーを降りる彼女に、
「じゃ、お疲れ」
軽く手を挙げた「れいさん」は、特にタクシーを降りるわけでもなく、視線をちらりと向けただけであっさりとそう言った。
そして、彼女は
「あの……どこで降りるんですか?」
タクシーから降りようとした時にふとそう私に問いかけた。
あー、きっと私が「れいさん」とこのままどこまで一緒なのかが気になるんだろうな。
そんなの気にする必要はまるでないんだけど。