強気な彼から逃げられません
「駅まででいいん……」
最寄りの駅で降りると、そう言おうとした私の腕を突然掴んだ「れいさん」が、ぐっと低い声で。
「こいつはこのまま俺んちに連れて行くから、気にするな」
まるでそれが当然のように言い放った。
「……は?」
思いがけない言葉に驚いた私は、ただ隣の彼を見つめ返すしかできなくて。
「あの、えっと……」
意味のない言葉を呟いた。
彼はそんな私の様子に気遣うわけでもなく、
「じゃ、お疲れ」
私と同じように驚いている女の子にあっさりとそう言って手を上げた。
彼女をちらりと見るわけでもなく、どちらかと言えば早く帰って欲しいとでもいうようなあっさりとしたもので。
「あの、れいさん……」
タクシーを降りても尚『れいさん』に声をかける彼女はどこか必死で、初めて会った私でも彼女の気持ちはわかる。
『れいさん』が好きなんだと、まるわかりだ。
こんな綺麗な女の子に好かれるなんて、 男性なら嬉しいだろうに、隣にいる彼は。
「じゃ、運転手さんお願いします」
あっさりとそう言っていた。