強気な彼から逃げられません
彩実さんを降ろしたタクシーは、ドアをバタンと閉めて動きだした。
そっと振り返ると、悔しそうに立ち尽くしている彩実さんがだんだん小さくなっていく。
ふと目が合ったような気がしたけれど、その瞳はまるで私を睨んでいるようで、慌てて体を前方に向きなおした。
「うわっ。怒ってる」
思わず呟いた私の声に、隣の『れいさん』はくすりと笑って
「睨まれてたな。彼女、結構きつい性格らしいから」
肩を震わせていた。
「あ、あのねえ、彼女はあなたの事が好きなんでしょ? じっとあなたを見つめて大好きですって視線で訴えてたのに、どうして私を巻き込むんですか?」
「え?だって、俺は彼女の事好きじゃないし。俺にくっついて離れないから面倒で、てっとり早く放り出しただけだけど」
「放り出したって……」
「何度も俺にはその気はないって言ってるのにしつこいんだよな、自分の見た目に自信のある女って面倒だ」
面倒、だと?
彼は、後部座席の背もたれに体を預けて小さく息を吐くと、ネクタイを緩めた。