強気な彼から逃げられません



付き合い始めに味わうドキドキ感満載の恋愛の醍醐味そのものかもしれないな、と密かに分析しつつも。

「明日は全国から部課長たちが集まる大きな会議が予定されているから受付は大忙しなの。だから、会社を休むなんて、無理なんだ。私もそっちに行きたいけど行けない。ごめんね」

私も、すぐにでも怜さんに会いたいけど、我慢しなければならない状況をわかって欲しい。

これまでの私なら、仕事は二の次にして恋人に自分の気持ちも時間も全てを投げ出していたけれど、今そんな過去の自分を振り返ると何も残っていない。

恋人との時間を優先したことで周囲に迷惑をかけたこともあったし、私の評価を下げてしまったこともある。

後悔と反省ばかりだ。

仕事をないがしろにすると生活の基盤が揺らぎ、自分で自分を生きづらい状況に追いやることを、これまでの恋愛が教えてくれた。

だから、今は仕事を後回しにして恋愛を優先させるような自分は切り捨てると決めている。

怜さんに迷惑をかけたり自分を追い込むようなことはしたくない。

たしかに、明日仕事を休んで怜さんのもとに行くなんて、かなり魅力的だけど。

『俺は、来て欲しいけどな。……まあ、仕事なら仕方ないか』

残念な気持ちを隠そうとしない声を聞けば、会いたい気持ちに負けてしまい、明日会いに行くと言いそうになるけれど、ぐっとこらえる。

「怜さんの部屋で待ってるから、ちゃんと私の所に帰ってきて」

彩実さんが怜さんを狙っていようとも、この出張で距離を縮めようとしているとしても、私は怜さんを信じて待っていよう。

私に仕事を休んで北海道に来て欲しいと、怜さんがそう言ってくれただけで、私は待てる気がした。

それに、愁さんからのからかいメールに右往左往している怜さんを知って、私一人が怜さんを求めているわけではないと、そして、不安になっているわけではないと知った。

「大好き」

自分から想いを口にすれば、怜さんはちゃんと受け止めてくれるという自信と心地よさも、私を成長させてくれたように感じた。

どれだけ想いをぶつけても、怜さんはそれを重荷に思わず、心から満たされた表情で応えてくれる。

その積み重ねが、自分にとって居心地のいい、過ごしやすい毎日へと導いてくれたのだ。
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