強気な彼から逃げられません
「言われなくても抱き潰すつもりなんで、とっととここで失礼します。 野崎さんも、溺愛している奥様と、楽しい週末を過ごして下さい」
「ああ。言われなくてもそのつもりだ。それに、天羽だけじゃない、俺にも迎えは来てるんだ」
ふふん、と聞こえてきそうな顔で私たちの背後に視線を向けた男性。
会話から察すると、先輩弁護士の野崎さんらしい。
有名な弁護士さんだから顔に見覚えはあったけど、実際に目の前にすると、端整な顔とオーラに圧倒されて、思わず見入ってしまう。
普段はきっと厳しい仕事ぶりだろうと簡単に想像できる見た目だけど、今の野崎さんは、どこか温かくて、口角の上がり具合はとても優しい。
私と怜さんは、野崎さんの視線に沿って振り返った。
そこには、綺麗な笑顔を浮かべた女性が、小さな女の子と手を繋ぎながらゆっくりと歩いていた。
「柚、桜っ」
野崎さんは、二人に声をかけると軽く手を振った。
途端、小さな女の子が笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。
「俺の嫁さんと娘だ。二人とも可愛くて羨ましいだろう?」
野崎さんは自慢げにそう呟くと、人ごみの中走ってくる女の子に駆け寄って、そして幸せそうに抱き上げた。