強気な彼から逃げられません



「桜、いい子にしてたか?」

女の子に頬ずりするその顔は、頬が緩み、目じりはこれでもかというほど下がっている。

あらら、親バカ弁護士さんだなと思ったけれど、更に。

「お帰りなさい」

野崎さんの傍らに寄り添った綺麗な女性、奥様の柚さんに違いない彼女を見つめる野崎さんの表情は更に更に柔らかく崩れて。

「うわっ。キスしてる」

人混みだという事はお構いなしに、柚さんを抱き寄せた野崎さんは当然だとでも言うように彼女に口づけた。

柚さんはそれを拒むでもなく受け止めて、それでもやっぱり恥ずかしいのか真っ赤になって俯いた。

当たり前だよね。

こんな公共の場で……って、さっき私と怜さんに野崎さんが言った言葉なのに、自分だって奥様にそれ以上の事をしてる。

「野崎さんって、若い頃は女性関係が派手だったらしいのに、今じゃそんな事想像できないくらいに奥様一筋でぶれないんだよな」

呆れたような怜さんの声に、そっと視線を向けた。

怜さんは、どこか羨ましげな瞳で野崎さん夫妻の様子を見つめながら、私の体に回した腕に更に力を込めた。

「野崎さんの仕事ぶりも、惚れた女への愛情の注ぎ方も、俺の憧れなんだ」

「憧れ?」

「ああ、俺も、芹花を必死で愛していいか? お互いの存在をいつもどこかに感じながら、愛し合いたい」


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