世界から君が消えた
「出来たよ!」
笑顔で俺に、パンの入った袋を差し出す。
さっきまでの笑顔とは少し違う、俺にだけ見せてくれている笑顔。
「ありがと。」
レジを他の人に代わってもらい、お店の外で少し立ち話をした。
「じゃあね、また明日。」
「うん、バイバイ」
「バイバイ」
手を振ると、振り返してくれる。
歩みを進め、5m程で立ち止まった。
振り返ると、まだいつもの笑顔がそこにはある。
「明日、朝迎えに来るから、待ってて。」
笑顔は変わらなかったが、頬がほんのり紅潮した。
「うん!」
「夜は一人で出歩くなよ!昼間とかもできるだけ家にいろ。」
「お前はお母さんか!」
「ちげーよ、ばぁか。ただ、心配なんだよ。」
昔っから、危なっかしいから、心配なんだよ。
優奈と奏太はずっと一緒にいて、家族みたいなもんだし。
もし、お前がいなくなったらって考えたら、怖くて眠れそうにない。
「何でよ。」
少し離れた距離がもどかしい。
「お前までいなくなったら、俺…生きてけねぇし。」
忘れかけてた記憶が、頭を過る。
それを墨で塗りつぶす様に、消した。