Secret×Secret
最低の男
いつもの私は朝には弱くて3度寝くらいするけれど、鏡の前に座って化粧が終わるころにはびしっと仕事モードに入るけど今日の私は全くだった。
いつもより早く起きたけれど化粧をしても髪を巻いてもため息がこぼれる。

原因は嫁のいる男にだまされた事でも
二日酔いでせっかくの日曜日が潰れてしまったことではない。

普段より2本遅い電車に乗って会社の最寄り駅の改札を抜けたところで唯に会った。

「あれ?いつも早いのにこの時間に出社するの珍しいね。」
月曜日の朝にふさわしく爽やかな笑顔の唯を見てまぶしすぎて目を細めた。

「詩乃、なんて顔してんの?・・・ってそりゃ元気もでないよね。」
そう言って哀れそうな顔をして肩をポンとたたいた。
「あーうん。そうね。」

恐らく唯は勘違いしてるであろうと思ったけれど相手が相手なのでとりあえず誤解させたままでいいや、と思った。
というか、私もあれは酔っぱらって見た夢だという可能性にまだすがりたい。
これからその元凶と顔を合わせるなんて考えたくもない。

浮かない気持ちを引き締めて、仕事モードにスイッチを入れてIDカードをかざしてオフィスへ入るとエントランスがいつも以上に人が渋滞してる。

「えー。この時間っていつもこんなに混んでるの?エレベーター乗れないじゃん。」
「いや、いつもはこんなに混むことないと思うけど・・・」

そう言って首をかしげる唯を振り返るとエレベーター前から一層声があがった。

「きゃー。専務が下界に降りてきてるよ!!」
「私今月初めて見た!」
「あ~私専務見れるだけでここの会社入った甲斐があった!」

主に女子社員の黄色い声の先に、にこやかに爽やかに笑顔を振りまく専務を見つけた。

「うわー。専務がこんな時間にここに来ちゃダメでしょう。珍しい。」
黄色い声を上げる女子社員たちを心底面倒な顔で見ながら唯が言った。

あれ、今日専務ってこんな時間になんかあったっけ?と考えたけどそれ以前にあることを思い出した。
専務がいるってことはあの人もいるに違いない。

とりあえずまだ心の準備もしてないし、エレベーターに乗ることもできないから、
と二階まで続くエスカレーターに乗る為、くるっと後ろを向いた。
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