Secret×Secret
「あ、島崎さんおはよう。」
そこにいたであろう全ての視線が私の背中に刺さっている気がした。
爽やかに挨拶する専務。

と、その隣には眼鏡をかけてきっちりネクタイを締めたいつもの手塚課長。

やっぱり土曜日のあの姿は夢だったのではないか?と思うほどきっちり今まで通りだ。

「おはようございます。専務。今日はどうされたんですか?」
痛い視線を浴びたまま唯から言わせると仮面のような笑顔を貼り付け振り返った。

「あー、ごめんね。急にちょっといい企画で動きがあって今から打ち合わせして午後から京都行くことになって。」

そう全然申し訳ないなんて思ってないであろう軽く謝りながら私の前までずんずん進んでくる。

「そうですか。かしこまりました。打ち合わせから戻り次第移動できるように手配しておきますね。」

「今日は島崎も同行するから13時には行けるように準備しといて。」

専務の急な予定変更や出張なんて日常茶飯事なので驚くこともなく淡々と話した私はなるべく目を合わせないようにしていた課長からの言葉にハッと目を合わせてしまった。

「はい??」
急に間の抜けた声をした私を見てくすっと笑うと
「そんな言い方ないよねぇ。手塚ってば。でもとにかく打ち合わせに行かないといけないからとりあえず準備しといてね。」
そう言って颯爽と二人で外へ出て行ってしまった。

専務のいなくなったエントランスは止まっていた時間が戻ったかのように動き出してみんながせわしなく各々の部署へと移動していった。

「ほら、準備しなきゃだから詩乃も行かなくちゃじゃないのー?」
そう言って私の背中を押す唯にあぁ、うん。と首をかしげながら急ぎ足でエレベーターへと向かった。

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