Secret×Secret
確か入社してもうすぐ一年というところで、受付の唯は社内のあらゆる事が耳に入っていた。
8年目の今はもう社内で唯の知らないことはないんじゃないかというくらいの情報屋だ。

「半年くらい前から付き合ってたんだって。で、昨日詩乃が渡部君と手繋いでたっていうのを誰かが由香に言っちゃったみたいなんだよねー・・・」
ものすごく言いにくそうに私にそう告げた唯の顔は今と同じ困った笑顔だった。

私はと言うと晴天の霹靂ってこういうこと言うんだ!とばかりにただただ衝撃を受けて何も言えなかった。

噂というのは広まるとあっと言う間で尾ひれ背びれどころか足でも生えたんじゃないかっていうくらい話がてんこ盛りになっていた。
同期の由香に同情して唯以外の同期はみんな由香の味方だったし、ホテルから出てるの見ただとか人の彼氏を誘惑して寝取った女だとかの噂を聞いて社内の他の人も私を遠巻きに見るようになった。

きっと唯は受付でいろんな人と話をすることが多いし私以上に根掘り葉掘り聞かれてただろうけどなるべく私の耳に入らないようにうまいことかわし続けてくれた。

渡部君はと言うと最初2、3回連絡が来たりしたけど言い訳だか由香に黙っていてほしいお願いなのかどっちつかずの言葉をブツブツ言っていた。
けど、その姿を見てあれだけ彼の前ではピンクのオーラがいつも見えていたのが一瞬で真っ黒に染まっていくのがわかった。

その1年後の二人の結婚式には同期で二人だけが招待状が来なかった。

結局その件があって、あからさまないじめとかはなかったけど社内の人は私に対して嫌悪と同情の目で見ていたのがわかったし、私はとにかく粛々と仕事をこなすようになった。

救いは私の関わることの多い秘書課の人や上役の方たちは全く変わらず接してくれたことだった。

無駄に社食でワイワイする事もないしみんなで飲み会!とかも社内行事以外は参加しない。
一応秘書という仕事上笑顔も作るが唯に言わせてみれば仮面をかぶっているみたいなんだって。

私はそれ以来社内恋愛なんて面倒なことは絶対にありえない。

「でも結局渡部君も転職したし由香以外の同期の女の子たちももうみんな辞めてていない訳だし、詩乃の事もうみんなそんな目で見てないんだからそろそろ社内にも目を向けてみたら?」
「いや、2度あることは3度も4度もあるんだよ。」

そう妙に自信ありげに言うとまぁ確かに、と唯はふっと笑った。




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