俺様黒王子とニセ恋!?契約
優しい声で、彼は残酷な一言をお見舞いする。
私の中で、何かが大きく砕け散ったような気がした。


「ごめん。ありがとうな」


篤樹は早口でそう言い切ると、ニコッと私に笑いかける。
その笑みが、私の心を大きく抉った。


あの頃と変わらない。
私がただ遠くから憧れるだけだった弓道部の王子様。
今、篤樹は私が憧れ続けた頃の笑顔で、私の想いにとどめを刺す。


「篤樹っ!」


大股で玄関に向かう篤樹を、必死の思いで呼び止めた。
けれど、届かない。
篤樹は玄関先で一度だけ立ち止まるだけで、振り返ってくれないまま、ドアを開けて出て行ってしまった。


閉ざされたドアを、ただ呆然と見つめる。


本当だ。篤樹が言った通り、彼はあの頃と変わってない。
あれから何年経ってどんなに私が成長しても、彼に合わせて背伸びをしても、篤樹は私の手が届く人じゃない。
届いていい人じゃない……。


ハアッと大きな息を吐いて、煌々と私を照らす天井の照明に向かって顔を上げた。
眩しさに、ギュッと目を閉じる。


――覚悟。したのにな……。


心の中でそう呟いた時、目尻から頬の横を抜けて、首筋に冷たいものが流れ落ちた。


「……堕ちる覚悟、出来たのにな……」


小さく掠れた声が、耳の奥を震わせた。
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