ドルチェ セグレート
「……っ、こんな性悪女と一緒にいるなんて、逆に神経疑っちゃう!」
「Huh? 人の恋路を邪魔する、無粋な人間はどっちかな? 自分がうまくいかないと、他人の恋愛がうまくいくのがそんなにイヤ?」
「く、くだらないっ。こんな性格悪い人になんか付き合ってられない!」
「Her face is made up like a cake(そっちこそ、厚化粧のくせに)」
 
言い逃げするように志穂ちゃんは、私たちに背を向けつかつかと歩いていく。
その背中に、流暢な英語で花音ちゃんがなにやら投げかけた。
 
え……? なんだったの、これは。
なんでいい歳して、大人のケンカを見届けなきゃなんなかったんだろう。

そして、この花音ちゃんって、本当に何者なの? 
英語も発音良すぎだけど、まさか日本人じゃないとかではないよね?
 
あまりの非日常な出来事に、開いた口が塞がらない。
そんな私の横で、花音ちゃんが志穂ちゃんが去って行った方向に、真っ赤な舌を出していた。

「全く。ちょっとは大人しくしろよ、花音」
「だって。ああいう女、キライなんだもん」
「自分だって、似たようなもんだったろ」
「だからこそ、あの女を撒くことが出来たんじゃない。言っておくけど、あのタイプには負ける気がしないから」
 
花音ちゃんは、開き直った態度で鼻を鳴らして遥さんに答える。

ふたりは、確かに親し気な雰囲気はするけど……。
 
疑問の眼差しをふたりに向けると、遥さんが気づいて苦笑した。

「あー、ごめん。コイツ、オレの妹で」
「どうもー。東雲(しののめ)花音です!」
「妹……?!」
 
ペコッとお辞儀して屈託なく笑う花音ちゃんは、やっぱりデパートでの印象とは違うもの。
ということは、あれは仕事用の彼女で、こっちが素の彼女なんだ。

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