ドルチェ セグレート
「じゃあ、神宮司さんとは」
「兄の雇い主兼、同僚? 心配しなくても、深い関係はないよー。それに、慎吾さんはあなたのことが……っんん!」
 
人に指をさしちゃいけないって知っていたけど、花音ちゃんの正体に驚いて、咄嗟に指を向けてしまう。

彼女は、キャッキャと明るく振る舞って否定した。
そして、何かを言い掛けたところで、遥さんが後ろから両手で花音ちゃんの口を覆う。

「余計な口は挟まない! じゃ、慎吾。先、戻ってるからな」
 
ズルズルと花音ちゃんを引きずるように、遥さんは笑顔で店内へと戻って行く。
ポカンとふたりを見つめていたけど、すぐにハッと我に返った。
 
今、この場には神宮司さんとふたりきり。

どうしよう! 話したいことはあるはずなのに、なにから口にしていいのか整理がつかない!

花音ちゃんは恋人ではなかったし、互いに特別な想いもなさそうだと安堵はした。
かといって、簡単に神宮司さんと向き合えるかと言ったら、容易には出来なくて。
 
言葉に詰まってオロオロとし、沈黙のなか、第一声を懸命に考える。
 
冷静になって。
今日、神宮司さんに声を掛けられなくても、自ら『会おう』と思った理由を思い出して。

「――神宮司さん。私、話したいことが」
 
自分にゆっくりと言い聞かせるようにして、ようやく声になった私の心。
 
取り繕う必要も、愛想笑いを浮かべたりする必要もない。
ただ、伝えたいことを口に出せばいい。
 
ひと呼吸おいて、それを実行しようとしてゆっくりと顔を上げる。
久方ぶりに、きちんと向き合った神宮司さんに、胸が震えた。
 
目と目が合い、瞬きを一度したあとで、神宮司さんが開口する。

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