ドルチェ セグレート
「え……どうしたんですか?」
 
仏頂面で立っている神宮司さんに、恐る恐る問いかける。
てっきり、その不機嫌そうな顔の理由は私なんだと思っていたら、神宮司さんの背後からひょこっと遥さんが顔を覗かせた。

「今日の仕込みはおしまい! 用事終わったら、慎吾に送っていってもらいなよ? 夜道はひとりじゃ危ないよ」
 
コック帽を外しながら、ニコッと笑い掛けられる。

「え? あ、もしかして、私邪魔して……」
 
突然押しかけ、半ば強引に約束を取り付けてしまったせいだと思った。
これは遥さんの気遣いなのだと察し、すっくと立ちあがって狼狽える。

「いいんだよ。たまにオレもゆっくり彼女と過ごしたいからね。ちょうどよかった」
 
困惑した私に優しい声色で続けると、ニッと口角をあげた。
 
……彼女、いるんだ。
 
ぽかんと立ち尽くした私の脳裏には、それが一番に浮かんだ。

イケメンパティシエだもん。それに、確かお父さんも有名なパティシエみたいだったし。
さらに、こんなに気さくな性格で、相手がいないわけがない。
 
先に遥さんは、鼻歌交じりで奥の別室へと消えて行く。
そこから、ゆっくり焦点を神宮司さんに合わせる。

「俺も着替えてくるわ」
「あ……はい。なんか、すみません……」
「いや。遥の気まぐれは今に始まったことじゃないから」
 
神宮司さんは苦笑して、遥さんが向かった部屋へと向かって行った。その背中を見て思う。
 
神宮司さんも、やっぱり彼女がいるんじゃないのかな。
遥さんの話を聞いて、そう思わずにはいられない。
 
そこに、遥さんよりも先に、着替え終えた神宮司さんがやってきた。
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