雪降る夜に教えてよ。
「きっと頭では解っているんです。たぶん、手を伸ばせばすぐそこに幸せはあるのかも知れない。でも、心の中ではやっぱり怖いんです。だから、答えを先延ばしにしている」

そんな事は解りきっている。

怖いから、踏みだすことを躊躇って、そこに向かうことを避けている。

「愛情が怖いというのが、私には解らないわ。愛情は優しいものではなくて? 私はルイに愛しまれ、とても幸せよ?」

「愛情は憎しみに変わることもあるんです」

私は、いつの間にか私を見ていた恵理子さんと視線を合わせた。

「こうやって、少し冷静に考えられるようになったのは、桐生さんのおかげだとは思いますけれど」

「そう……なの?」

「はい。私はそういう感情は拒絶してましたから」

拒絶していることを考えることはないだろう。

頭の中から締め出してしまえばいいだけの話なんだから。

だけれど、恵理子さんの瞳には痛ましいものでも見るような、悲しい輝きがあった。

「それは、酷なことではなくて?」

「私には友達がいましたし……もっと若い頃には、それなりに好きな人もいたんですよ?」

「うまくいかなかったということね?」

静かな声に静かに頷く。

彼と私とでは、最初からうまくいくはずもなかったのだけれど……。

「思えば、今以上に幼かったんだと思うんです。だから、私は今をちゃんと育んでいきたい」

何かを変えることは、怖いことで……でも。

「それが自分に育てられる感情か、私にも解りません。けど、桐生さんと、ちゃんと向き合いたいと思うんです」

きちんと同じ気持ちで向き合いたい。そう思ったから、彼の手を取った。

「彼は追ってきてくれたから。私を受け止めてくれているから……時間がかかるかもしれないけど。ちゃんと自分の過去に決別できてから。しっかり答えたいんです」

恵理子さんはゆっくりと私の方に向き直った。

「今すぐではなく、いつか……ということね?」

「いつか……そういう事も、私にはないと思っていたので、正直ビックリです」

私が笑うと、恵理子さんも笑った。

少しだけ張り詰めた空気が霧散する。

「いいことだわ。出来れば、私がおばあちゃんになる前にそうなってくれるといいわね。隆幸はアレでも私のお気に入りの甥なのよ」

「いい甥御さんです。たまに困っちゃうくらい」

おどけたように言ってみると、案外すんなりとおどける自分を受け入れられた。

それに驚いたけれど、恵理子さんは気にした様子もなく口元を隠して笑い声をあげた。

「渡米生活が長いのよ。日本の女の子はビックリしちゃうわよね?」
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