Sweetie Sweetie Sweetie
初めてシャンパンを卸した、あの日から、
度々、シャンパンを卸すようになった。
そうすると、チェックは一気に十万円ほど跳ね上がることは、わかっていたけれど、
「ミィちゃんと離れたくない、ずっとこの卓にいたい……」
リンが、そう言うと、卸さずにはいられなくて、
何より、ご褒美みたいな、エレベーターでのキスが欲しくて、
一本、また一本と、シャンパンを卸していた。
そして、ある日、
「大事な話があるんだけど……」
リンは、言いにくそうに、切りだした。
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「ミィちゃん、未収って知ってる?」
聞いたことのない単語だった。
「あのね、最初の頃のチェックが二万でおさまってたのは、俺が、超えたぶんを立て替えてたからなんだよね。そういうの未収っていうんだけど……シャンパンを卸す余裕があるなら、その未収を詰めてほしいんだ」
あの二万円という金額に、そんな事情があったなんて、知らなかった。
「できれば、月末までに……」
未収金額、十五万円。
「最初は、自腹切るつもりでいたんだけどね。ミィちゃん、高校生だから、二万以上はキツいだろうと思って。でも、けっこう余裕あるみたいだし。逆に、俺の方が、これだけの未収の自腹はキツくてさ……」
その話を聞いた次の日、ATMに駆け込み、残高照会画面に表示された数字を見て、
愕然とした。
はじめ、百万円以上も入っていた口座には、五万円とちょっとしか残っていなかった。
咄嗟に、込み上げてきたのは、
“切られてしまう”
という、恐怖。
その恐怖に、いてもたってもいられなくなって、
すぐに、リンに、電話をした。
「……ごめん……どうしよう……もう五万円しか残ってない……」
『そっか、困ったね。ミィちゃん、最近、シャンパン卸したりして目立ってるし、社長や代表が知ったら何て言うか……』
「じゃあ……どうしたらいいの……」
怖かった。
リンの事情も知らずに、
会いたいからと店に通い、もっと隣にいてほしいと欲を出し、勢いだけの飲み方をして、
リンを苦しめて、
『とりあえず、落ち着こうよ』
「うん……」
『電話じゃなくて、店で話そう? こういうことは、ちゃんと顔合わせて話したいから』
そうして、リンに、切られてしまう、ということが、
「う……ん……」
怖くてしかたなかった。
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