ハメごろし

「あら、これ、なんだか不思議な味がするのね」


 ナプキンで口元をおさえながらスプーンを置いたのは妻の方だ。


「そう? ママ、これ美味しいじゃない。あたしは好きよ」


「まあ、あなたが好きならそれでいいけど。これ、なんのお肉?」


「……スープはお口に合いませんでしたか奥さま。シェフにそう伝えます」


「あら。そんなこといいのよ気にしなくて。次、出してちょうだい」


「只今」



 そうか。スープは今一だったのか。娘のほうは好みだったみたいだけれど。そんなことを考えているとおかしくなってきた。


 これはどうだ。



「滅多に出ないものだそうです。お口に合えばよろしいのですが」


「まあ。これ、なんなの?」



 肝臓を見て眉を細めるのと反対に娘のほうは嬉々として肝臓をつまみ上げている。



 笑いたいのを堪えた。



 今、おまえたちが食っているものは、おまえの父親だ、おまえの旦那だ。


 これを知ったら発狂するだろう。その顔が見られないのは残念だ。それでも、




あたしを裏切った罰は受けてもらう。



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