ハメごろし

「ねえ、あなた。これはなんの肉? わたくし、分からないものは口にしたくないの。主人にもそう言ってあるんですけど」


「存じております。ただ、社長からの言付けで、社長みずから後で説明なさるということなので、私の口からは……すみません」


「ほんと、あの人も煩わしいことをするわね。自分は出てこないでなんなのかしら」


「すみません。取引先と、」



「ああ、いいの、いいの。あの人はいつだって仕事優先なんだから。まったく、振り回されるこっちの身にもなれってのよ」


「ママ! そんなこと言わないでよ、恥ずかしいじゃない。それに、これ、食べないならあたし貰っていい?」


「欲しいならあげるわよ。私、生肉って雰囲気じゃないの」


「美味しいのに、もったいない」






『美味しいのに、もったいない』




 それ、アイツがよく言ってたっけ。



『君はこんなに美味しいのに、もったいない。早くいい人を見つけないと』
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