めぐり逢えたのに
「私も残念に思っているんだよ、君が息子になれなくて。君とは面白い話ができそうだからね。」

白々しい、みえすいたことを、と一瞬むかっとした後で、ふっと、この人はここまでくるのに今までどれだけのものを犠牲にしてきたのだろう、と思う。
案外同じような経験をしてたりするのかもしれなかった。

まだメインディッシュも出てきていないのに、話の行方は大方決まったように思えた。二本目のワインを開けながら、戸川は続けた。

「もし、君が私の言っていることを理解してくれたのなら、娘との一切の連絡を断って欲しい。そのためのアレンジは全て竹本がやってくれるだろう。面倒をかけるお詫びのしるしに、一つだけ君の望むものをプレゼントさせてもらうよ。」

それから戸川はふいに話題を変えた。

一本目と二本目のワインはどちらが美味しかったか感想を聞かれて、美味しいワインを飲んでる時点でどれも一緒です、と答えた拓也を見て目を細めた。

「私もね、実はワインの味など全くわからなくてね。私の弟はワインにうるさいんだが、私が何気なく開けて飲んだワインがそれこそ一本百万以上するワインだったらしく、目を剥いて怒られたよ。」

「一本百万ですか。僕だったら、一本一万のワインを百本飲む方がいいですけどね。」

「ワインに興味のない人はみな同じ事を言うらしいな。私も弟にそう言ったら、弟は肩をすくめて呆れ返ったよ。」

とくとくとワインが注がれていくグラスを見ながら、拓也は、この人の息子になれないのは本当に残念なことだ、とぼんやり思っていた。

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