めぐり逢えたのに
「もしもし? どなたですか。」

私は「あ、あの……」と言うだけが精一杯で、あとは無言でケータイを握りしめていた。
彼もまた無言だった。すごく長い間沈黙していたような気がするが、でも、多分三秒ぐらいしかなかったのかもしれない、とも思う。

「忘れ物、したんでしょ。」

いきなり流れて来た落ち着いた涼やかな声に私は飛び上がらんばかりに驚いた。

「は、はい!」

咳き込みながら勢いよく答えると、ケータイの向こうでふっという笑みが聞こえたような気がした。

「明日、取りに来るだろ? 8時に雑色駅の改札に来れる?」
「は、はい!行きます。」
「じゃ。」
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