めぐり逢えたのに
佐々倉は、そのままそこにへたりこんだ。私たちは、長い間無言でそこに座っていた。

佐々倉としおりさんのマンションは、私のところとは全然違っていた。
こんなにおしゃれなマンションなのに、中に一歩入ったとたん、所帯じみた空間が広がっていた。

ソファの前にこたつが置いてあったり、戸川の自動車の写真のカレンダーがあったり、民芸品の熊があるかと思えば、自分たちで組み立てるようなカラーボックスが置いてあったり、何だか……、統一感がない。
程よく隙のあるその部屋は、気取りがない分、ほっとくつろげるような空間だった。

キッチンに置いてある道具も、雪平だったり、アルミのなべだったり、かすかに煮物の匂いが漂ってくる。カウンターの脇にちょこんと置いてあった、二人の写真が目を引いた。

佐々倉は、しおりさんとの生活を本当に愛していたんだろうな。

やがて佐々倉はぽつりと呟いた。

「東京タワーにも行った事がなかったんだ、しおりは。」



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