めぐり逢えたのに
「何」

彼は、また、例によって不機嫌な声で言葉短かに問うた。

「あ、うん……。昨日でお芝居が終わりだったから、今日はうちにいるかな……って。」

私はパンフレットを差し出しながら、おずおずと言った。彼はさすがに意外そうな顔をした。

「知ってたの。」
「あ、たまたまママと…」

そこまで言って、私ははっとして口をつぐんだ。服をすっかり着てしまった女の人は、落ち着いた物腰で私の顔をジロジロみた。

「ふーん。これがタクが言ってた戸川万里花か。結構かわいい顔してんね。」
「帰るの?」
「帰るよ。こんな邪魔が入っちゃってすっかり気分が白けたわ。」
「えー、せっかくいいとこだったのに。」
「ふん、続きはこのコとやれば。」
「だって、コイツやらせてくれないもん。」

私は、目の前で繰り広げられる大人の会話にすっかりたじろいでしまった。呆然としているうちに女の人はさっさと支度を整えて出て行った。彼はたばこの火を消すと、つまらなそうに言った。

「続き、やる?」
「え?! あの、え?!」

動揺する私に彼は抱きついてきた。たばこ臭い。お酒臭い。私は顔をしかめたが、彼は全然気にも留めずに、私の制服を脱がせ始めた。

「責任とってよ。」
「せ、責任?」
「そう、アンタがいいとこに入ってきたからやりそこなっちゃったじゃん。」
「そ、そんな……。」

も、もしかして、これってレイプ?頭の片隅でそんなことを思ったり、彼の手はひんやりしてるな、なんて思ったり、目、目はつぶった方がいいんだろうか、とか、とにかく頭がぐちゃぐちゃしていた。彼はふっと手をとめて私の顔を見た。

「……パパに怒られんじゃないの。」
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