めぐり逢えたのに
二人の胸につかえていたことを言葉にして、急に彼の気持ちが白けたのがわかった。
私は顔が真っ赤になった。彼がパパのことに言及したことと、動きが止まった安堵感で私はぽろぽろ涙をこぼした。彼はそれを見ると、黙って私の頭をなでた。

「もう、お子ちゃまは来んな。」

私は涙が止められなくて、下を向いたまま泣き続けた。

「で、でも、会いたいもん……。」
「ここに来るとほんとーに何されるかわかんないよ。」
「だけど、止めたじゃん。」

私が鋭く指摘すると、彼は苦笑いをした。

「確かにそうだなー。万里花ちゃんて、結構頭いいんじゃない。全然抵抗しないから、頭悪いのかとばっかり思ってた。」

彼は部屋のすみから銀行からもらうような薄いタオルを持って来て私に差し出した。

「顔拭いたら。」

私は、そのタオルをみて思わず笑ってしまった。

「これで?ティッシュとかハンカチとかないの?」
「そんなしゃれたものはここにはない。」

開き直ったような、いばった言い方がおかしかった。私は、自分のかばんからハンカチとポケットティッシュを取り出した。

「じゃあ、これ、ここに置いていってもいい?」

彼はびっくりするぐらい優しい笑顔で私に微笑んでくれた。
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