初恋を君に
トイレに向かう廊下で話し声が聞こえた。何気なく声のする方へ目線を向けると
ともみ先輩がいた。
ともみ先輩は会社では見たことがない、
ふんわりと柔らかい笑顔で電話をしていた。口ぶりから旦那さんとお話しているようだ。
『うん。じゃあね。』
そう言うと電話を切るとこちらに向き直った。電話中に気づいていたようだ。
「ちょっと盗み聞き?」
「ちがいます!たまたまです。」
知ってるわよ〜と笑いながら肩を軽く叩いてきた。
「ともみ先輩さっきの…」
「急に何よ〜。さっきのって?」
そう言いながらともみ先輩が廊下の端にある椅子に座ったので隣に腰掛けた。
「てっきり…とか、ついにって。」
「あぁ…同期くんとの事?違うの?」
「違うというか…なんというか。なんでそう思ったんですか?」
えー?なんでって…そう言うと少し考えてから真面目な顔をした。
「あんたって外堀から埋めるタイプだったっけ?」
「えっ?」
「なんかもう少し直感的な恋愛するイメージだったけど…今回は失敗したくないの?」
「えっと…うーん。」
そう言われると確かに…
失敗したくない。
「う~ん…」
「私は男女に純粋な友情なんてほぼないと思ってるわよ。仲の良い男女は、どちらかが好きか好きだったか下心があるかよ。ねぇ?失敗したくないのはなんでなの?」
確信をつく質問に思わず言葉が詰まる。
失敗したくないのは、
失いたくないから…?
「うっ…うーん。そうなのかなぁ…」
「あっはは〜悩んでる!でもなんか開けた?」
「あ〜はい。なんか開けたというか道筋が見えました。」
ともみ先輩が立ち上がったので私も続く。
「なら良かった。最近モヤモヤした顔してたわよ〜」
「そうでした?」
ともみ先輩は笑いながら大きく頷いた。
「でもフリーの時にそんな顔してるのは初めて見たから、いつもと違うんだなぁって思ってた。」
「そっそうですか?」
そう答えると、うん。まぁ頑張りなっ。
と背中を叩かれた。
『真剣な恋愛ほど悩んで臆病になるかもね…』
結婚前にともみ先輩がポロッと
口にした言葉を思い出した。
本当にそうなのかもしれない。
何だか急に上条に会いたくなってきた。
とりあえず、開発課の忘年会に行く前に
上条に連絡してみよう。
そう決めて、ともみ先輩と席に戻った。