初恋を君に
「起きてるんでしょう?」
「はぁーい…」
くみちゃんは申し訳なさそうな声で返事をした。
「いつから起きてたのよ…」
「…タクシーにぃ…乗ったあたり…ですぅ」
やっぱりね…
そんな事だと思った。
酔っているが目は覚めていた。
というより覚めてしまったのだろう。
「どうする?私の家に来る?帰る?」
「…おじゃましますぅ。」
りょーかい。そう言って座席に体を埋めた。
スマホを見ると不在着信とメールが入っていた。すべて上条からだった。
『もしかして染谷課長と一緒なのか?』
上条、何言ってるんだろう?
なんで…染谷課長が出てくるんだろう?
せっかく道筋がなんとなく見えてきたのに…また訳の分からないことが増えてしまった。
とりあえず一緒にいない事と今日は電話が出来そうにないことをメールする。
くみちゃんもなにやら考え事をしているのか窓の外を見たまま黙っていた。
「お客さん。もう少し先ですか?」
「…あっはい。その先のコンビニで停めてください。」
タクシーから降りコンビニで飲み物を買ってからマンションへ向かう。
くみちゃんは少しふらついているが
1人では歩けないほどではないので、
並んで歩いてゆく。
「どうぞ。少し散らかってるかもしれないけど。」
「…おじゃましまーす。」
「くみちゃん!まずはメイクを落としちゃいな!コート預かるから。」
ソファに座ろうとしたくみちゃんを留まらせ、洗面所へ促す。
1回座ったら恐らく寝てしまうだろう。
「はぁーい…」
そう言うとくみちゃんはペタペタと洗面台へ向かう。
さて、その間にスエットでも用意しておこう。
寝室に向かおうとした時に、
鞄の中からスマホが震える音がした。
メールだと思い放ておこうと思ったが、
思いの外、音が止まらないので手に取って見ると着信だった。
相手は、なんと染谷課長だ。
「お疲れ様です。菊池です。すみません…気づくのが遅くなりました。」
『お疲れさま〜。ちゃんと家着いた〜?』
相変わらずのしゃべり方に、
肩の力が抜ける。
「はい。くみちゃんと私の家に帰って来ました。明日は休みなのでうちに泊まらせます。タクシー代ありがとうございます。それに会費も…」
『俺が呼びたかったし、男はそのくらいの甲斐性がなきゃね〜。冨田…よろしくね…』
あら?
もしかして2人の間に何かあったのだろうか?最後の言葉が少しだけ真剣味を帯びていた。
「はい。大丈夫です。それではわざわざありがとうございます。」
『いーえ。おやすみ。そうだぁ。上条なんか変な勘違いしてるから、そろそろ相手してあげな。じゃーね。』
「…えっ!?…って切れてるし。」
変な勘違い?
なんだろう…これ以上ややこしい状況に
なるのは、ちょっと…
そんな事を考えていると、
リビングの扉が開く音がした。