初恋を君に
「あのさ。お礼は食事でいい?」
ソファに向かいながら話しかける。
「そんなに気にしなくていいのに。でもご馳走してくれるなら遠慮なく。」
「じゃあ、私はほぼ定時上がりだからさっ。上条が都合のいい日程メールして。あと食べたいものも。」
「わかった。すっげー高いものにしてやるよ。」
「うっ…ほどほどでお願いしますよ。」
わかったわかったと、上条は笑った。
まぁ迷惑かけたし、少しくらいは奮発しますよ。
「あっそうだ。忘れるところだった。」
そう言うとジャケットのポケットの中から腕時計を取り出した。
毎日、身に付けていたピンクゴールドのドレスウォッチ。
「忙しい仕事中でもこの時計で時間を確認する時、俺を思い出してくれるとちょっとだけ嬉しいな。」
彼は腕時計の包みを開けて喜ぶ私に
恥ずかしそうに言ってくれた。
はにかむ彼の顔を思い出して目頭が熱くなる。
「文?」
受け取ろうとしないのを不思議に思ったのか、のぞき込むように上条は私を見ていた。
「…そのテーブルの上に置いといて。わざわざゴメンね。持って来てくれてありがとう。」
「了解。時計も渡したし、帰るよ。」
テーブルの上の腕時計から目を離して
上条を見送るために私も立ち上がる。
気づかれた?
そんな事はないはず。
「じゃあ、また明後日な。」
そう言って私の髪をすく。
本当にこの男は…。
「はいはい。でもそんなに会社で会う事ないじゃん。」
「何だよ。冷たいヤツだなっ」
可笑しそうに笑って上条は帰っていった。